メジャーリーグの試合でよく聞く「故障者リスト(IL)」は、チーム運営において選手の怪我や病気への対応と戦力維持を両立させるための非常に重要な制度です。
この記事では、故障者リストの基本的な概要から、10日間・15日間・60日間という期間ごとのルールの違い、そして選手登録枠(ロースター)への影響まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。



ILって色々種類があるみたいだけど、特に10日間と60日間の違いとか、選手枠にどう影響するのかがよく分からないんだよな…



大丈夫です。この記事を読めば、故障者リストの種類ごとの違いや、26人枠・40人枠への影響がすっきり分かりますよ。
この記事でわかること
- 故障者リスト(IL)の基本的な仕組みと目的
- 10日間・15日間・60日間ILの期間やルールの違い
- IL登録がアクティブロースター(26人枠)と40人枠に与える影響
- IL期間中の年俸やサービスタイムの扱い
メジャーリーグの故障者リスト(IL)制度の基本
メジャーリーグベースボール(MLB)の試合を観戦していると、「故障者リスト(IL)」という言葉をよく耳にするかもしれません。これは、怪我や病気でプレーできない選手を一時的に登録するための、チーム運営において非常に重要な制度です。
この章では、まずILの基本的な概要や登録される条件、制度が設けられている理由、そして簡単な歴史について解説し、IL制度の全体像を掴んでいきましょう。ILの基本を知ることで、メジャーリーグのニュースやチーム戦略への理解が深まります。
故障者リスト(IL)の概要
故障者リスト(Injured List、略してIL)とは、その名の通り、怪我や病気によって試合に出場することが困難になった選手を一時的に登録するためのリストです。
選手がILに登録されると、その期間中はメジャーリーグの公式戦には出場できなくなります。練習への参加可否は状況によりますが、選手は治療やリハビリに専念することになります。単に選手を休ませるだけでなく、チームが代替選手を補充し、戦力を維持するための仕組みでもあるのです。
IL登録の対象となる条件
ILに登録されるためには、公認の医師により、怪我や病気で試合出場が難しいと診断される必要があります。
つまり、単に選手の調子が悪かったり、チームの戦略的な理由だけで登録したりすることはできません。あくまでも客観的な診断に基づいた、試合に出場できない正当な理由が求められるのです。例えば、肩の炎症、足首の捻挫、あるいは内科的な疾患などが診断されれば、IL登録の対象となります。



ちょっと調子が悪いくらいでも登録できるの?



医師の診断が必要で、単なる不調では登録できません
この条件があることで、制度の悪用を防ぎ、リーグ全体の公平性を保つ役割も果たしています。
IL制度が設けられている2つの理由
メジャーリーグに故障者リスト制度が設けられているのには、主に2つの大きな理由があります。
それは「選手の保護」と「チーム間の公平性の確保」です。
1つ目は、怪我をした選手が無理な出場を避け、治療と回復に専念できるようにするためです。
選手生命を守る上で非常に重要な目的といえます。
2つ目は、主力選手が離脱した場合でも、チームが極端な戦力ダウンを強いられないようにするためです。
ILに登録することで、その選手を一時的に試合出場可能な選手枠(アクティブロースター)から外し、代わりにマイナーリーグなどから選手を補充できるため、チームは一定の戦力を維持しやすくなります。
この制度は、選手の健康を守ると同時に、リーグ全体の競争力を維持するために不可欠な仕組みなのです。
IL制度の簡単な歴史(いつから)
現在の故障者リスト(IL)制度の原型は古くから存在し、そのルールや名称は時代とともに変化してきました。
以前は「Disabled List(DL)」という名称で知られていましたが、2019年シーズンから現在の「Injured List(IL)」という名称に変更されました。
また、登録に必要な最低日数も変更されています。
例えば、短期間のILはかつて15日間でしたが、2017年シーズンからは野手を中心に10日間に短縮されました(投手と二刀流選手は現在15日間)。
このように、選手の回復状況や試合への影響を考慮しながら、制度は常にアップデートされているのです。
こうした歴史的背景を知ることで、現在のIL制度がどのように形成されてきたのか、より深く理解できます。
故障者リスト(IL)3種類の期間とルール詳細
メジャーリーグの故障者リスト(IL)は、選手の怪我の状況やポジションに応じて、主に3つの期間が設定されています。どのリストに登録されるかで、チームの選手登録枠(ロースター)への影響が大きく異なる点が重要になります。
ここでは、「10日間IL」「15日間IL」「60日間IL」という3種類のリストについて、それぞれの期間、対象となる選手、そしてロースター枠への影響といったルールの詳細を解説します。
さらに、登録開始日を過去に遡れるルールや、各リストの違いを比較整理して、複雑な制度を分かりやすく説明します。
ILの種類 | 最短登録期間 | 主な対象選手 | アクティブロースター(26人枠) | 40人枠 |
---|---|---|---|---|
10日間IL | 10日 | 野手 | 外れる | 残る |
15日間IL | 15日 | 投手・二刀流 | 外れる | 残る |
60日間IL | 60日 | 重傷者(全選手) | 外れる | 外れる |
選手の状態やチーム戦略によって、これらのILが使い分けられるのです。
短期離脱向け1 10日間IL(主に野手)
「10日間IL」は、比較的軽度の怪我、例えば軽い捻挫や打撲などで一時的に戦列を離れる野手が主に登録されるリストです。
このリストに登録されると、最低10日間はメジャーリーグの公式戦に出場することができません。アクティブロースターと呼ばれる試合に出場可能な26人の選手枠からは外れますが、球団が保有権を持つ40人枠には残ります。そのため、チームは空いた26人枠に、40人枠の中からマイナーリーグの選手などを昇格させて補充できます。
項目 | 内容 |
---|---|
最短登録期間 | 10日 |
主な対象選手 | 野手 |
アクティブロースター(26人枠) | 外れる |
40人枠 | 残る |
代替選手の補充 | 40人枠内の選手から補充可能 |



10日間って、結構短いけど、枠はどうなるの?



試合に出る26人枠からは外れますが、球団全体の40人枠には残りますよ
短期間での復帰を目指す野手が、治療に専念しつつチームの枠運用にも配慮するための制度と言えます。
短期離脱向け2 15日間IL(投手・二刀流選手)
「15日間IL」は、投手および、投手と野手の両方で出場する大谷翔平選手のような二刀流選手を対象とした故障者リストです。
野手向けの10日間ILよりも期間が少し長く設定されており、最低15日間の登録が必要になります。
これは、投手の登板間隔や調整期間を考慮したものです。10日間ILと同様に、登録された選手はアクティブロースター(26人枠)からは外れますが、40人枠にはとどまります。
チームは空いた26人枠を、40人枠内の別の選手で埋めることが可能です。
項目 | 内容 |
---|---|
最短登録期間 | 15日 |
主な対象選手 | 投手・二刀流選手 |
アクティブロースター(26人枠) | 外れる |
40人枠 | 残る |
代替選手の補充 | 40人枠内の選手から補充可能 |



ピッチャーだと少し長くなるんだな



はい、登板スケジュールの調整なども考慮されています
特に先発投手などが短い間隔で登板を回避する場合などに利用され、投手陣のマネジメントにおいて重要な役割を担います。
長期離脱向け 60日間IL(重傷者)
「60日間IL」は、骨折や靭帯損傷など、手術が必要であったり、シーズン中の復帰が困難であったりするような、深刻な怪我を負った選手が登録されるリストです。
投手・野手に関わらず、全選手が対象となります。
このリストに登録されると、最低60日間はメジャーリーグの試合に出場できません。
シーズンをほぼ、あるいは完全に欠場するケースも少なくありません。10日間ILや15日間ILとの最も大きな違いは、アクティブロースター(26人枠)だけでなく、球団が保有する選手全体の枠である40人枠からも一時的に外れる点です。
項目 | 内容 |
---|---|
最短登録期間 | 60日 |
主な対象選手 | 全選手(重傷者) |
アクティブロースター(26人枠) | 外れる |
40人枠 | 外れる |
代替選手の補充 | 新たに選手を40人枠に追加可能 |



60日だと、枠の扱いも違うのかな?



その通りです。最大のポイントは40人枠からも外れる点です
選手が40人枠から外れることにより、チームはマイナー契約の選手をメジャー契約に切り替えて40人枠に加えたり、トレードやFAで獲得した選手を登録したりするなど、選手層を維持・補強するための柔軟性が生まれます。
登録期間開始日の遡及適用ルール
故障者リストへの登録手続きにおいて、登録期間の開始日を、実際に登録した日よりも過去の日付に遡って適用できる特別なルールが存在します。これは「遡及適用(そきゅうてきよう)」と呼ばれます。
具体的には、選手が最後に試合に出場した日の翌日から数えて、最大3日間まで遡ってIL登録の開始日とすることが可能です。
例えば、月曜日に試合に出場した選手が火曜日に怪我と診断され、水曜日にIL登録の手続きをした場合、火曜日を開始日として登録できます。



遡及適用(そきゅうてきよう)ってやつか。なんでそんなことするの?



実際の離脱開始日とIL期間を合わせることで、最短復帰日を早める狙いがあります
これにより、チームは選手の離脱からIL登録までのタイムラグを埋め、より早く選手を復帰させられる可能性が出てくるため、選手管理において有効な手段となります。
期間によるルールの主な違い整理
これまで解説してきた10日間IL、15日間IL、60日間ILの主な違いを、あらためて表で整理します。特に、ロースター枠への影響に注目すると、それぞれの制度の役割がより明確に理解できます。
項目 | 10日間IL | 15日間IL | 60日間IL |
---|---|---|---|
最短登録期間 | 10日 | 15日 | 60日 |
主な対象選手 | 野手 | 投手・二刀流選手 | 全選手(重傷者) |
アクティブロースター(26人枠) | 外れる | 外れる | 外れる |
40人枠 | 残る | 残る | 外れる |
代替選手の補充 | 40人枠内の選手から補充 | 40人枠内の選手から補充 | 新たに選手を40人枠に追加可能 |
遡及適用 | 可能(最大3日) | 可能(最大3日) | 可能(最大3日) |



やっぱり60日間ILだけ、40人枠の扱いが特別なんだな



そこがチーム編成上の大きなポイントになります
このように、故障者リストは単に選手の離脱期間を示すだけでなく、チームがどのように選手枠を管理し、シーズンを戦っていくかという戦略にも深く関わっている制度なのです。
IL登録が選手登録枠(ロースター)に与える2つの影響
故障者リスト(IL)に選手を登録することは、単に選手が試合に出られないだけでなく、チームの選手登録枠(ロースター)の運用に直接的な影響を与えます。
特に、試合に出場する選手を登録するアクティブロースター(26人枠)と、球団が保有するメジャー契約選手全体の枠である40人枠への影響を理解することが重要です。
代替選手の補充プロセスや復帰時の調整についても解説します。ILの種類によってロースター枠への影響が異なるため、チーム戦略上、どのILに登録するかが重要な判断になります。
アクティブロースター(26人枠)への影響
アクティブロースターとは、メジャーリーグの公式戦に出場資格のある選手を登録する枠で、通常26人で構成されます。選手が10日間IL、15日間IL、60日間ILのいずれかに登録されると、その選手はこのアクティブロースターから一時的に外れます。



選手がILに入ると、試合に出られる人数が減っちゃうってこと?



その通りですが、チームは空いた枠に別の選手を補充できます。
IL登録によってアクティブロースターに空きができるため、チームはマイナーリーグなどから代わりの選手を昇格させ、試合に出場する26人の枠を維持することが可能です。
40人枠への影響(特に60日間ILの場合)
40人枠(40-man roster)とは、球団がメジャー契約を結んでいる全選手を登録する枠のことです。
アクティブロースターの選手もこの40人枠に含まれます。
10日間ILや15日間ILに登録された選手はアクティブロースターからは外れますが、40人枠には残ります。
しかし、60日間ILに登録された場合は、40人枠からも一時的に外れる点が大きな違いです。
ILの種類 | アクティブロースター(26人枠)からの除外 | 40人枠からの除外 |
---|---|---|
10日間IL | ◯ | × |
15日間IL | ◯ | × |
60日間IL | ◯ | ◯ |
60日間ILによって40人枠に空きができると、チームはマイナー契約の有望株などを新たに40人枠に加え、メジャーへ昇格させる準備ができるなど、より柔軟な選手編成が可能になります。
IL登録による代替選手の補充プロセス
選手が故障者リスト(IL)に登録されると、チームは代替選手を補充してロースターの穴を埋めることができます。
例えば、10日間ILや15日間ILでアクティブロースター(26人枠)に空きができた場合、チームは40人枠に登録されている他の選手(多くは傘下のAAA級マイナーリーグにいる選手)をメジャーリーグに昇格させます。



じゃあ、60日間ILで40人枠も空いたらどうなるの?



その場合は、マイナー契約の選手を新たに40人枠に追加して、メジャーに昇格させることができます。
60日間ILの場合は40人枠からも外れるため、チームは40人枠外の選手(マイナー契約選手など)とメジャー契約を結び、40人枠に追加した上でアクティブロースターに入れる、という手順を踏むことも可能です。
ILからの復帰に伴うロースターの調整
故障者リスト(IL)に登録されていた選手が回復し、復帰する際には、ロースター枠の再調整が必要になります。
ILから選手が復帰するということは、アクティブロースター(26人枠)に選手が1人増えることを意味します。
そのため、チームは他の選手をマイナーリーグへ降格させるか、DFA(Designated for Assignment:事実上の戦力外)とするなどの方法で、26人枠を空けなければなりません。
特にシーズン終盤など、選手の降格オプションがない場合や、チームが降格させたい選手がいない場合などは、このロースター調整が難しい判断となることもあります。
故障者リスト(IL)に関する疑問点と選手への影響
メジャーリーグの故障者リスト(IL)に関して、選手にとって気になる点はいくつかあります。
特に、IL登録期間中の年俸やメジャー在籍日数がどう扱われるのかは、生活や将来のキャリアにも関わる重要な問題です。
ここでは、年俸支払い、サービスタイムの加算、復帰プロセス、マイナーリーグとの違い、過去の日本人選手の事例、そして特殊なリストについて、詳しく解説します。
IL登録期間中の年俸支払い
故障者リスト(IL)に登録されたとしても、基本的に選手には契約に基づいた年俸が全額支払われます。メジャー契約を結んでいる選手が、公認の医師によって試合出場が困難と判断されILに登録された場合、その期間中も給与は保証されるのが一般的です。
契約種類 | IL登録期間中の年俸 |
---|---|
メジャー契約 | 原則、全額支払い |
マイナー契約 | 契約内容による |



ILに入っている間もお給料はちゃんともらえるのかな?



はい、メジャー契約選手であれば基本的に契約通りの年俸が支払われますので安心してください。
これは、選手が安心して治療やリハビリに専念できるようにするための重要なルールの一つです。
サービスタイム(メジャー在籍日数)の加算
サービスタイムとは、選手がメジャーリーグのアクティブロースター、または故障者リスト(IL)に登録されていた日数を示すものです。
ILに登録されている期間も、このサービスタイムは通常通り加算されます。
サービスタイムは、将来的な年俸調停権やフリーエージェント(FA)権の取得資格に関わる非常に重要な要素です。
例えば、サービスタイムが6年に達するとFA権を取得できます。
IL登録によって試合に出られない期間があっても、サービスタイムが加算され続けることは、選手のキャリアプランにおいて大きな意味を持ちます。



怪我で休んでいる間も、メジャーにいた日数としてカウントされるってこと?



その通りです。IL期間もサービスタイムは加算されるため、FA権取得などに影響はありません。
IL制度は、選手の権利を守る側面も持っているのです。
ILからの復帰プロセスとリハビリ出場
故障者リスト(IL)から選手が復帰するまでのプロセスは、段階を踏んで進められます。
まず、ILに登録された期間(10日間、15日間、60日間)の最短日数を満たす必要があります。
その後、チームの医師やトレーナーが選手の回復具合を慎重に判断し、プレー可能な状態になったと認められれば、ILからの復帰(アクティブロースターへの再登録)が可能です。
多くの場合、実戦感覚を取り戻すために、マイナーリーグの試合にリハビリ出場という形で数試合プレーします。
ステップ | 内容 |
---|---|
1 | IL登録の最短期間を満了 |
2 | 医師・トレーナーによる回復状況の判断 |
3 | (必要に応じて)マイナーでのリハビリ出場 |
4 | ILからの復帰、アクティブロースター登録 |
リハビリ出場は、特に投手の場合は球数やイニング数を段階的に増やしながら、野手の場合は守備や走塁を含めた動きを確認しながら行われます。
マイナーリーグの故障者リストとの相違点
メジャーリーグ(MLB)だけでなく、その傘下であるマイナーリーグにも独自の故障者リスト制度が存在します。MLBのILとは、期間やルールにいくつかの違いがあります。
大きな違いの一つは、マイナーリーグには「7日間IL」が存在することです。また、MLBの60日間ILのように、登録によって40人枠から外れるといったルールは、マイナーリーグのILには通常適用されません。
項目 | MLBのIL | マイナーリーグのIL(AAA, AAなど) |
---|---|---|
主な登録期間 | 10日、15日、60日 | 7日、60日など(リーグレベルにより異なる場合あり) |
40人枠への影響 | 60日間IL登録で枠から外れる | 通常、影響なし |
目的 | 選手の治療専念、チームのロースター管理 | 選手の治療専念、チームのロースター管理 |



マイナーリーグにもILはあるんだね。ルールは少し違うのか。



はい、基本的な目的は同じですが、期間設定などに違いがあります。
選手の置かれている状況(メジャー契約かマイナー契約か、40人枠に入っているかなど)によって、適用されるルールが変わる点に注意が必要です。
参考 日本人選手の過去のIL登録事例
多くの日本人メジャーリーガーも、過去に故障者リスト(IL)への登録を経験しています。
具体的な事例を見ることで、制度がどのように運用されているか理解が深まります。
選手名 | 主な登録IL(例) | 登録理由(例) |
---|---|---|
大谷翔平 | 15日間IL | 右肘の疲労、右脇腹の張り |
大谷翔平 | 60日間IL | 右肘靭帯損傷(トミー・ジョン手術) |
ダルビッシュ有 | 15日間IL | 右肘の炎症 |
ダルビッシュ有 | 60日間IL | 右肘靭帯損傷(トミー・ジョン手術) |
菊池雄星 | 15日間IL | 首の張り |
千賀滉大 | 15日間IL | 右肩の張り |
前田健太 | 60日間IL | 右肘靭帯損傷(トミー・ジョン手術) |
上記はあくまで一例ですが、投手の場合は肘や肩の故障、野手(大谷選手含む)の場合は脇腹や下肢の張りなどで短期間のILに入ることがあります。
また、トミー・ジョン手術のような大きな手術を受ける場合は、60日間ILに登録され、シーズンを全休することもあります。
これらの事例からも、ILがメジャーリーグのシーズン運営において、日常的に活用されている制度であることが分かります。
脳震盪や出産など特殊なリストの存在
通常の故障者リスト(IL)とは別に、特定の状況に対応するための特殊なリストも存在します。
これらは、選手の健康やプライベートな事情に配慮して設けられています。
代表的な特殊リストには、以下のようなものがあります。
リスト名 | 主な目的・期間 | ロースター枠への影響 |
---|---|---|
7日間IL(脳震盪) | 脳震盪の疑いがある選手を保護。最低7日間登録、期間延長も可能 | アクティブロースターから外れる |
父親リスト | 子供の誕生や養子縁組に立ち会うため。1~3日間登録 | アクティブロースターから外れる |
家族危篤・忌引リスト | 家族の危篤や死去に伴うもの。3~7日間登録 | アクティブロースターから外れる |
新型コロナウイルス関連IL | 感染または濃厚接触による離脱。期間は状況により異なる(現在は運用変更の可能性あり) | アクティブロースターから外れる |
これらのリストは、通常の怪我とは異なる理由で選手が一時的にチームを離れる際に適用され、選手の権利保護とチームのロースター管理を両立させる役割を担っています。
よくある質問(FAQ)
- 故障者リストの登録期間は、必ず最短日数で復帰しなければならないのでしょうか?
-
いいえ、必ずしも最短日数(例: 10日間ILなら10日、15日間ILなら15日)で復帰しなければならないわけではありません。これはあくまで「最低限登録されていなければならない期間」を示します。選手の怪我の回復状況によっては、最短期間を過ぎても故障者リストに登録され続けることは一般的です。チームのメディカルスタッフが復帰可能と判断するまで、選手はリストに留まります。
- 故障者リストに入っている選手の年俸は、チームの総年俸(ぜいたく税の計算対象)に含まれますか?
-
はい、故障者リストに登録されている選手の年俸も、原則としてチームの総年俸に含まれ、ぜいたく税(Competitive Balance Tax)の計算対象となります。選手が試合に出場できない期間であっても、メジャー契約に基づき年俸は支払われ、それがチーム全体の年俸総額にカウントされる仕組みです。高額年俸の選手が長期離脱した場合でも、チームの年俸負担は変わりません。
- マイナー契約の選手が怪我をした場合、メジャーリーグの故障者リストと同じ扱いになりますか?
-
通常は異なります。メジャー契約を結んでいない、いわゆるマイナー契約の選手が怪我をした場合は、メジャーリーグ(MLB)の故障者リスト(IL)ではなく、その選手が所属するマイナーリーグ独自の故障者リストに登録されます。マイナーリーグのILは、7日間ILがあるなど、MLBとは期間やルールが一部異なります。ただし、メジャーの40人枠に入っている選手がマイナーリーグでプレー中に怪我をした場合は、MLBのILの対象となります。
- 60日間故障者リストに入ると40人枠から外れると聞きましたが、その選手は自由契約(FA)になるのですか?
-
いいえ、60日間故障者リスト(60-day IL)に登録されて40人枠から外れたとしても、その選手がすぐに自由契約(FA)になるわけではありません。40人枠から外れるのはあくまで一時的な措置であり、球団はその選手との契約を保持しています。選手は怪我が治れば、再び40人枠に復帰するための手続きが取られます(その際、他の選手を枠から外す必要が生じることもあります)。FAになるのは、契約期間が満了した場合や、DFA(Designated for Assignment)を経て自由契約となった場合など、別の手続きが必要です。
まとめ
この記事では、メジャーリーグの故障者リスト(IL)について解説しました。ILは、選手の怪我への対応とチームの戦力維持を両立させるための重要な制度であり、特に期間ごとのルールや選手登録枠(ロースター)への影響の違いを理解することが観戦を楽しむ上で大切になります。
- 選手の保護とチームの戦力維持を目的とした制度
- 主に10日・15日・60日の種類があり、期間やロースター枠への影響が異なる点
- IL期間中も基本的に年俸は支払われ、サービスタイムも加算されること
これらの点を押さえることで、試合中継やニュースで「IL入り」という言葉を聞いた際に、その背景やチームへの影響をより深く理解できます。
メジャーリーグには、その他にも日本プロ野球にはない制度やルールがいくつか存在します。
その内容が気になるあなたへ。
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